傾斜地(けいしゃち)やひな壇(ひなだん)の土地は、眺めがよく、日当たりや風通しを得やすい一方で、擁壁(ようへき)の安全性、がけの近くに建てるときの規制、基礎や造成の費用、道路からの上り下りに注意が必要な土地です。
ひな壇とは、斜面を階段状に造成した宅地のことで、隣の敷地との間に高低差があり、その境目を擁壁で支えていることが多くあります。土地を買う前や建て替える前には、擁壁が安全か、法令上どんな条件があるかを確かめることが、後悔しないための第一歩です。

傾斜地・ひな壇の土地のメリット
- 眺めがよい:周りより高い位置から、街並みや遠くの景色を望めます
- 日当たり・風通しがよい:前の建物の影響を受けにくくなります
- 視線が気になりにくい:道路より高い位置に住まいがあると、通りからの視線を避けやすくなります
- 高低差を空間に活かせる:床の高さをずらすスキップフロアや、半地下の空間をつくれることがあります
気をつけること
| 気をつけること | 内容 |
|---|---|
| 擁壁の安全性 | 古い擁壁や、ひび割れ・傾き・水抜き穴の詰まりがある擁壁は、作り直しが必要になることがある |
| がけの近くの建築の規制 | 自治体の条例で、がけの近くに建てる場合の距離や、擁壁・基礎の条件が決められていることがある |
| 造成・基礎の費用 | 擁壁の作り直し、深い基礎、地盤の改良などで、平坦な土地より費用がかさむことがある |
| 道路からの上り下り | 玄関までの階段が長くなる。車の出入り、荷物の運搬、将来の暮らしに影響する |
| 雨水の処理 | 斜面の上からの水の流れ、擁壁の排水を考える |
| 工事のしやすさ | 重機や資材の搬入が難しく、工事費や工期に影響することがある |
擁壁で確かめること
法令上の扱い
- 建築物ががけ崩れなどの被害を受けるおそれがある場合は、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければなりません(建築基準法 第19条第4項)
- 高さが2mを超える擁壁は、建築基準法の工作物として確認申請の対象になります(建築基準法 第88条、建築基準法施行令 第138条第1項第5号)
- 大阪府では、令和6年4月1日から、府域(政令指定都市・中核市などを除く)のほぼ全域が宅地造成及び特定盛土等規制法の「宅地造成等工事規制区域」に指定され、一定規模の造成や擁壁の工事には許可や届出が必要です(大阪府「盛土規制法」)
がけの近くに建てる場合の距離や構造の条件(いわゆる「がけ条例」)は、自治体ごとに内容が違います。土地のある自治体の条例を確認してください。
見た目で分かる危険のサイン
国土交通省の「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」(令和4年4月)では、擁壁の種類(空石積み・増積み・二段擁壁など)、水抜き穴などの排水の状態、ひび割れ・ふくらみなどの変状を、擁壁の健全度を判定する項目として挙げています。水抜き穴については、3㎡に1か所以上、内径75mm以上あるかどうかが判定の区分になっています(国土交通省)。
| 確かめること | 気をつけたい状態 |
|---|---|
| 擁壁の種類 | 空石積み(石を積んだだけでモルタルなどで固めていないもの)、既存の擁壁の上に積み増した増積み、二段になった擁壁 |
| ひび割れ | ひび割れや目地のずれ |
| ふくらみ・傾き | 擁壁の表面がふくらんでいる、前に傾いている |
| 水抜き穴 | 穴がない、少ない、詰まっている、しみ出しがある |
| 書類 | 擁壁の確認済証・検査済証、造成の許可の記録があるか |
宅地造成等工事規制区域内の擁壁の維持管理は、所有者・管理者・占有者が自ら行う必要があり、擁壁が崩れて被害が出たときには所有者などが責任を負う場合もあります(例:西宮市「擁壁の維持管理について」)。購入前に状態と書類を確かめ、心配な点があれば建築士などの専門家に調査を依頼しましょう。

実例:ひな壇造成地での建て替え(箕面の家)
YYAが設計した箕面の家(大阪府箕面市、2024年竣工)は、ひな壇造成地での建て替えです。敷地には擁壁があります。
建て替える前の家は1階がリビングで、道から近く人通りが気になっていたため、新しい家ではLDKを2階に移しました。ひな壇の高さを活かし、2階から梅田の街並みを望める住まいになっています。道路側の1階はピロティにしています。

2階リビングのメリット・デメリットについては2階リビングの記事、ピロティについてはピロティの記事で説明しています。
高低差を活かす間取りの考え方
- 眺めのよい階にLDKを置く:高い位置に家族の過ごす場所を置くと、眺めと明るさを得やすくなります
- 床の高さをずらす:地面の高さに合わせて床をずらすと、造成や基礎の量を抑えられることがあります(スキップフロアの記事)
- 道路との高低差の部分を使う:建物の下や擁壁の内側を、ピロティや収納、玄関までのアプローチに使います
- 北側の隣地との関係を確かめる:高さの制限(北側斜線など)は地盤面からの高さで決まるため、高低差のある敷地では早めに確認します(北側斜線の記事)
土地を買う前・建て替える前のチェックリスト
- 擁壁の高さ、種類、ひび割れや傾きの有無
- 擁壁の確認済証・検査済証、造成の許可の記録
- がけ条例・盛土規制法の区域と条件
- 道路と敷地の高低差、車の出入りと玄関までの階段
- 上下水道の引き込み、雨水の排水先
- 工事車両が入れるか
ご相談の前に
傾斜地やひな壇の土地は、擁壁や法令の条件によって、建てられる建物の位置や費用が大きく変わります。土地を買う前の段階でご相談いただくと、判断しやすくなります。ご相談の際は、土地の場所、測量図や公図、擁壁の写真(全体と近く)、販売資料や重要事項説明書の写し、建て替えの場合は今の家の図面を教えてください。
まとめ
傾斜地やひな壇の土地は、眺め・日当たり・視線の面で魅力がある一方、擁壁の安全性、がけの近くの規制、造成や基礎の費用、道路からの上り下りに注意が必要です。擁壁の状態と書類、自治体の条例や盛土規制法の条件を、土地を買う前・建て替える前に確かめましょう。高低差は、眺めのよい階にLDKを置く、床の高さをずらすなどの工夫で、暮らしの魅力に変えることができます。
この記事の監修
吉野優輔(一級建築士/株式会社YYA 代表取締役)
2007年近畿大学理工学部建築学科卒業。2009年~2021年株式会社日建設計。2021年に独立(2022年に株式会社YYAに改組)。2024年から近畿大学建築学部の非常勤講師。詳しくは会社概要をご覧ください。
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