マンションのリノベーションでは、住戸の内側(専有部分)は、間取りも内装も大きく変えられます。一方で、窓・玄関扉・バルコニー・コンクリートの躯体などの共用部分は、原則として自分だけの判断では変えられません。
さらに、どこまで変えられるかは、管理規約、建物の構造、配管の位置で決まります。同じ広さのマンションでも、「壁を取り払って広いLDKにできる住戸」と「動かせない壁がある住戸」があります。中古マンションを買ってリノベーションする場合は、買う前にこれらを確かめておくことが大切です。

専有部分と共用部分:どこまでが自分のものか
国土交通省の「マンション標準管理規約」では、専有部分と共用部分の境目を次のように示しています(マンション標準管理規約(単棟型)令和7年改正 第7条・第14条)。実際の範囲は、それぞれのマンションの管理規約で確認してください。
| 部分 | 標準管理規約での扱い | リノベーションで |
|---|---|---|
| 天井・床・壁 | 躯体(コンクリートの構造部分)を除く部分が専有部分 | 仕上げや下地、間仕切り壁は変えられる |
| 玄関扉 | 錠と内側の塗装部分が専有部分 | 内側の塗装や鍵は変えられる。扉そのものは共用部分 |
| 窓枠・窓ガラス | 専有部分に含まれない(共用部分。専用使用権がある) | 自分の判断では交換できない |
| バルコニー | 共用部分(専用使用権がある) | 床を張る、物を固定するなどは規約で決まる |
| コンクリートの躯体(柱・梁・床スラブ・構造壁) | 共用部分 | 壊す・穴を開けることは原則できない |
リノベーションでできること
- 間取りを変える:構造に関係しない間仕切り壁を撤去して、部屋をつなげたり、分けたりできます
- 内装を変える:床・壁・天井の仕上げ、造作家具、照明
- 設備を入れ替える:キッチン、浴室(ユニットバス)、洗面、トイレ、給湯器
- 配管・配線を更新する:専有部分の中の給水・排水・電気の配管・配線
- 断熱を高める:室内側から壁や床に断熱材を足す、内窓を付ける(内窓は規約の確認が必要)
リノベーションでできないこと・制限があること
| 制限 | 理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 窓・サッシの交換 | 窓枠・窓ガラスは共用部分 | 内窓を付ける。標準管理規約では、防犯・防音・断熱などのための窓の改良は管理組合が計画修繕として行い、すぐに実施できない場合は承認を受けて区分所有者が行える仕組みもある(第22条) |
| 玄関扉の交換 | 扉そのものは共用部分 | 内側の塗装や鍵の変更にとどめる |
| 構造壁・柱・梁の撤去 | 躯体は共用部分で、建物全体を支えている | 構造壁を残した間取りにする |
| 床材の自由な変更 | 下の階への音を防ぐため、規約で床の遮音の等級が決められていることがある | 規約の等級を満たすフローリングや工法を選ぶ |
| 水まわりの大きな移動 | 排水管には勾配が必要で、床下の高さや共用の縦管の位置で動かせる範囲が決まる | 床下の高さと縦管の位置を調べてから間取りを決める |
| 電気・ガスの容量 | 建物全体の設備で上限が決まっていることがある | 管理組合や管理会社に確認する |
管理組合への申請が必要
標準管理規約では、専有部分の修繕・模様替えなどで、共用部分や他の住戸に影響を与えるおそれのある工事は、あらかじめ理事長に申請し、承認を受けなければならないとしています。申請には設計図・仕様書・工程表を付け、承認するかどうかは理事会の決議で決めます(第17条)。同規約のコメントでは、フローリング工事、ユニットバスの設置、配管の取替え、間取りの変更などがこれにあたる例として挙げられています。
YYAがマンションのリノベーションで特に注意しているのは、床の遮音です。管理規約の中で、床の遮音の等級や床材の条件がうたわれているケースがあり、フローリングの種類や床の工法を決める前に、まず規約を確認します。
工事の前には、承認を得るための図面の準備と、理事会の開催日程を考えておく必要があります。工事できる曜日や時間、資材の搬入方法、近隣住戸へのお知らせも、規約や使用細則で決まっていることが多いので、早めに確認しましょう。
構造で、間取りの自由度が変わる
マンションの構造は、大きくラーメン構造と壁式構造に分けられます。
| 構造 | 特徴 | 間取りの自由度 |
|---|---|---|
| ラーメン構造 | 柱と梁で建物を支える | 住戸内の間仕切り壁は構造に関係しないことが多く、大きく変えやすい。部屋の角に柱や梁の出っ張りが出やすい |
| 壁式構造 | 壁で建物を支える | 住戸内に構造壁があると撤去できず、間取りの変更に制限が出る。柱や梁の出っ張りは少ない |
どちらの構造かは、図面(竣工図・構造図)で確かめます。住戸の中に構造壁があるかどうかで、「壁を取り払ってLDKを広くする」計画ができるかが決まります。
水まわりと配管で気をつけること
キッチンや浴室を別の場所に動かすと、排水管を延ばす必要があります。排水は勾配で流すため、移動の距離が長いほど床下に高さが必要になり、床を上げる(段差ができる、天井が低くなる)ことがあります。
- 共用の排水縦管の位置
- 床下の高さ(床の下の空間)
- 床スラブを貫通する配管の有無(下の階の天井裏を通る古い配管の場合、専有部分だけでは更新できないことがある)
これらは、図面と現地の調査で確かめます。

フルリノベーションの進め方
内装や設備を一度すべて撤去し、躯体の状態(スケルトン)にしてからつくり直す方法を、スケルトンリノベーション(フルリノベーション)と呼ぶことがあります。
- 現状を調べる:図面(竣工図・構造図・設備図)、管理規約・使用細則、修繕の履歴、現地の状態
- できる範囲を整理する:構造壁・配管・床の遮音・窓の扱い
- 間取りと仕様を決める:家族の暮らし方に合わせて、部屋の数や収納、水まわりの位置を決める
- 管理組合に申請する:設計図・仕様書・工程表を提出し、承認を受ける
- 工事:解体すると、図面と違う配管や下地が見つかることもあるため、予備の期間と費用を見込んでおく
YYAでは、4LDKのマンションをフルリノベーションした経験があります(非公開の事例のため、写真は掲載していません)。
工事中の仮住まいをどうするか
マンションのリノベーションでよく受ける相談が、工事中の仮住まいをどうするかです。フルリノベーションでは、キッチン・浴室・トイレも含めて住戸の中をすべて工事するため、住みながらの工事は難しく、工事の期間は別の場所で暮らすことになります。
- 仮住まいの場所:実家に身を寄せる、短期で借りられる賃貸住宅やマンスリーマンションを使う、など
- 引っ越しの回数:今の家から仮住まいへ、仮住まいから新しい住まいへと、2回の引っ越しが必要になる
- 荷物の置き場:仮住まいが狭い場合は、トランクルームなどに荷物を預ける
- 期間:解体後に配管や下地の状態が分かり、工程が延びることもあるので、仮住まいの期間には余裕を見ておく
- 費用:工事費のほかに、仮住まいの家賃、引っ越し、荷物の保管の費用がかかる
中古マンションを買ってリノベーションする場合は、今の住まいの退去時期と、購入・工事の時期をどう合わせるかも一緒に計画します。
中古マンションを買う前に確かめること
| 確かめること | 理由 |
|---|---|
| 管理規約・使用細則 | 床の遮音の等級、工事の申請、工事できる時間、ペットや用途の制限 |
| 構造(ラーメン・壁式)と構造壁の位置 | 間取りをどこまで変えられるか |
| 排水縦管の位置と床下の高さ | 水まわりを動かせるか |
| 築年(1981年6月より前の旧耐震基準かどうか) | 建物の耐震性の考え方が変わる。耐震診断や耐震改修の有無も確認する |
| 長期修繕計画と修繕積立金 | 大規模修繕の予定と、将来の負担 |
| 管理の状態 | 共用部分の手入れ、管理組合の運営 |
物件を決めてからでは、「思っていたリノベーションができない」ということもあります。買う前に、図面と管理規約を見ながら、できる範囲を確かめておくと安心です。戸建ての中古住宅については中古住宅の購入からリノベーションまでの記事、費用の考え方はフルリノベーションの費用の記事、設計料についてはリノベーションの設計料の記事で説明しています。
ご相談の前に
マンションのリノベーションは、管理規約と建物の構造・配管によって、できることの範囲が決まります。ご相談の際は、物件の資料(間取り図、竣工図があれば)、管理規約・使用細則、築年と構造、今の住まいで困っていること、リノベーションで実現したい暮らしを教えてください。
まとめ
マンションのリノベーションでは、専有部分の間取り・内装・設備は大きく変えられますが、窓・玄関扉・バルコニー・躯体などの共用部分は原則として変えられません。工事は管理組合の承認が必要で、床の遮音の等級なども規約で決まっていることがあります。構造(ラーメン・壁式)と配管の位置で間取りの自由度が変わるので、中古マンションを買う前に図面と管理規約で確かめておきましょう。
この記事の監修
吉野優輔(一級建築士/株式会社YYA 代表取締役)
2007年近畿大学理工学部建築学科卒業。2009年~2021年株式会社日建設計。2021年に独立(2022年に株式会社YYAに改組)。2024年から近畿大学建築学部の非常勤講師。詳しくは会社概要をご覧ください。
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