クリニックの開業準備で、内装をどこに頼むかは大きな分かれ道です。内装は患者さんが最初に触れる「医院の顔」であり、スタッフが毎日働く場所でもあります。
依頼先は大きく2つあります。設計と工事を一括で請け負う内装専門会社か、設計事務所に設計を頼み、工事を別の会社に発注する(分離発注)かです。どちらが向くかは、開業までの早さと手間の少なさを優先するか、診療方針に合わせた設計と、工事費の比較のしやすさを優先するかで変わります。
この記事では、費用の目安と内訳、依頼先の違い、開業までの流れ、法令の確認事項を、出典とともに整理します。

クリニック内装費の目安
テナントで開業するクリニックの内装工事費は、業界の記事では坪単価80万〜100万円程度が今の目安とされています(2ndlabo)。開業支援の専門家も、35坪程度のクリニックで坪100万円程度、総額3,500万円程度を目安に挙げています(幻冬舎ゴールドオンライン)。以前よく言われた坪40万〜70万円は、資材や人件費が上がった今では低い数字とされています。
ただし、これは統計ではなく目安です。物件の広さ、診療科、立地、工事の時期で大きく変わります。
見積もりの内訳の例
同じ記事には、30坪強のスケルトン物件で開業した例(2025年1月時点の見積もり)が載っています。総額は約2,190万円で、主な内訳は次のとおりです(2ndlabo)。
| 項目 | 金額(約) |
|---|---|
| 電気設備 | 350万円 |
| 空調設備 | 350万円 |
| 大工工事 | 300万円 |
| 内装仕上げ | 240万円 |
| 設計費・その他諸経費 | 250万円 |
このほかに防災工事、サイン工事などが別にかかる、とされています。電気と空調だけで総額の3割を超えているように、クリニックは設備の比重が大きい建物です。医療機器の電源、給排水、空調の位置は内装と密接に関わるため、設計の初期から整理しておくことが大切です。
医療機器、家具、電気容量を増やす工事なども、内装工事とは別に予算を見込みます。
スケルトン物件と居抜き物件
- スケルトン物件(内装のない状態):レイアウトの自由度が高い分、費用がかかる
- 居抜き物件(前のテナントの内装が残っている):費用を抑えやすい反面、間取りや設備の位置の制約がある
設計料
設計料は、総工事費の10〜15%程度が相場とする記事があります(2ndlabo)。YYAでは、計画ごとに個別にお見積りしています。
依頼先の違い:内装専門会社と設計事務所
| 比較項目 | 内装専門会社(設計施工一括) | 設計事務所+施工会社(分離発注) |
|---|---|---|
| 窓口 | 1社で完結し、手間が少ない | 設計と施工の2社とやり取りする |
| 工事費 | 設計と工事が一体のため、他社と比べにくい | 複数の施工会社の見積もりを比べられる |
| 工事のチェック | 施工する会社が自ら行う | 設計者が施主の側から工事を確認する(監理) |
| 設計 | 医療施設の施工経験を生かした提案 | 診療方針や敷地・物件に合わせて一から設計する |
| 向いている人 | 開業までの時間が短く、手間を減らしたい人 | 空間で診療方針を伝えたい人、費用の内訳を比べたい人 |
分離発注の強みは、工事費が妥当かどうかを、施工しない設計者が医師の側に立って確かめられることです。一方で、設計と施工を別に進める分、工程には余裕が必要です。
開業までのスケジュール(最短でも約半年)
テナントでの開業は、最短でも半年ほどかかるとされています(富士フイルム)。
- 物件探し・レイアウトの検討(契約前に設計者へ相談)
- 依頼先の選定(1〜2か月)
- 設計の打ち合わせ(2〜3か月):この間に保健所への事前相談を行う
- 内装工事(1〜2か月)
- 医療機器の搬入・開業準備(約1か月)
- 診療所開設の届出・開業
特に大切なのが、物件を契約する前に設計者へ相談することです。給排水の位置、天井の高さ、電気容量、バリアフリーの対応など、後から変えられない条件が物件ごとにあるためです。YYAが設計した美容室・ギャラリー「Lula」では、物件の契約前の内見から関わり、前面道路や歩道の広さ、見通しを決め手に物件を選びました。

保健所・法令で確認しておくこと
- 保健所への事前相談:診療所には、診察室や待合室などの構造設備の基準があります。具体的な基準や手続きは自治体によって異なるため、図面が固まる前に管轄の保健所へ相談します(東京都の例:東京都保健医療局 診療所の開設)
- 開設の手続き:医師が個人で開設する場合は、開設後10日以内に都道府県知事(保健所を設置する市・特別区では市長・区長)に届け出ます。医療法人などが開設する場合は、事前に開設の許可が必要です(医療法 第7条・第8条)
- 建築基準法:患者の収容施設(入院のベッド)がない診療所は、建築基準法上の「特殊建築物」に当たりません(建築基準法 別表第一)。そのため、テナントを無床の診療所に変える場合、用途変更の確認申請は不要です。ただし、法令に適合させる義務は残ります(国土交通省 用途変更)
- 消防:内装材や消防用設備の要件を、所轄の消防署と確認します
内装工事の耐用年数(賃借したテナントの場合)
借りた建物に行った内装工事(造作)は、税務上、その建物の耐用年数や造作の種類・用途・材質などから合理的に耐用年数を見積もるのが原則です。賃借期間が決まっていて更新できないなどの条件を満たす場合は、賃借期間を耐用年数として償却できます(国税庁 No.5406 他人の建物に対する造作の耐用年数)。
設備の工事は建物附属設備として扱われるものもあり、扱いが分かれます。具体的な処理は税理士に確認してください。
患者に選ばれる空間をつくる

クリニックの設計では、費用だけでなく、患者さんとスタッフの過ごし方から空間を組み立てることが大切です。
- 動線:受付→待合→診察→会計の流れと、スタッフの動きを交差させない
- 感染対策:発熱患者用の入口や待合を分ける、隔離できる部屋を用意する
- 居心地:光、素材、音で、待ち時間の不安を和らげる
- 将来の変化:機器の入れ替えや診療内容の拡大に備える
YYAが和歌山県田辺市で設計した「森の歯科」(歯科医院併用住宅、延床180.10㎡、2022年竣工)は、兵庫県芦屋のクリニックで院長を務めた歯科医が、田辺市で一から開業するための計画です。患者さんが怖さを感じずに通えることを大切にし、完全個室の治療室を前面の森に向けて配置することから建物全体を組み立てました。
将来は小児治療を中心にしたいという要望があったため、床は二重床とし、将来用の配管も今回の工事で立ち上げています。1階の診療を続けながら、将来の工事ができるようにするためです。外壁は杉の無塗装張り、内装は構造用合板の仕上げとし、周りの森になじませています。詳しくは森の歯科の設計の記事をご覧ください。
YYAへのご相談
- ご相談は無料です
- 物件を契約する前から相談できます。候補の物件の内見にも同行します(大阪の物件は無料。大阪以外は交通費のみ実費をいただきます)
- 大阪府吹田市の一級建築士事務所です。大阪・兵庫・京都・滋賀・奈良・和歌山など関西を中心に、全国のご依頼に対応しています。和歌山県田辺市でも歯科医院を設計しました
まとめ
クリニックの内装費は、業界の記事では坪単価80万〜100万円が今の目安とされています。ただし、物件や診療科で大きく変わり、電気・空調などの設備が費用の大きな割合を占めます。
依頼先を選ぶときは、「開業までの早さと手間の少なさ」を優先するのか、「診療方針に合わせた設計と、工事費の比べやすさ」を優先するのかを考えましょう。どちらの場合も、物件を契約する前に、設計者や施工会社に図面を見てもらうことをおすすめします。
この記事の監修
吉野優輔(一級建築士/株式会社YYA 代表取締役)
2007年近畿大学理工学部建築学科卒業。片岡重男建築研究所、株式会社日建設計を経て、2021年に独立(2022年に株式会社YYAに改組)。2024年から近畿大学建築学部の非常勤講師。詳しくは会社概要をご覧ください。
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