歯科医院の設計は、つい待合室や外観から考えがちです。しかし、患者さんが一番長く過ごし、一番緊張するのは治療の椅子の上です。
YYAが和歌山県田辺市で設計した「森の歯科」では、治療室を最初に配置し、残りの空間をそこから決めていく順番で設計しました。この記事では、その実例を交えながら、歯科医院の設計で確認しておきたいポイントを整理します。

最初に決めること:テナントか、新築か、併用住宅か

| 開業の形 | 自由度 | 主な検討事項 |
|---|---|---|
| テナント | 既存の建物に制約される | 給排水の位置、天井高、床上げの可否、電気容量 |
| 新築(医院のみ) | 配置から自由に計画できる | 敷地の法規制、駐車場、周辺からの見え方 |
| 併用住宅 | 医院と住まいを一体で計画できる | 患者と家族の動線の分離、将来の用途変更 |
新築や併用住宅では、建物そのものから設計できます。その分、治療室の窓や光、敷地の景色まで、患者さんの体験として組み立てられます。
診療室の形:個室・半個室・オープン

- 個室:会話や治療の音が周りに漏れにくく、患者さんが落ち着いて治療を受けられる。自由診療の説明にも向く。その分、面積と工事費は増える
- 半個室:間仕切りで視線を逸らす。スペースとプライバシーのバランス型
- オープン:スタッフが全体を見渡せ、効率がよい。一方で、音や視線が気になる患者さんもいる
どれが正解かは、診療方針で決まります。予防や矯正、インプラントなど、じっくり説明する治療が多い医院ほど、個室の効果は大きくなります。
動線:患者とスタッフを分け、滅菌室を近くに

- 患者さんの動線(受付→待合→診療室→会計)と、スタッフの動線を交差させない
- 滅菌・消毒室は、各診療室から最短で行ける位置に置く
- 滅菌室の中は、使用済みの器具を受け入れる側と、滅菌済みの器具を保管する側を分け、作業を一方向に流す
- 併用住宅では、住まいの玄関を医院の入口と分ける
X線室と法規
歯科のX線室には、医療法施行規則第30条の4に基づく基準があります。
- 壁・床・天井などを、外側の実効線量が1週間につき1mSv以下になるようにしゃへいする
- 室内に操作する場所を設けない
- X線診療室であることを示す標識を付ける
開設の届出では、しゃへい計算書や図面の提出を求められます。しゃへいの仕様は壁の厚さや仕上げに関わるため、設計の初期から機器メーカーと確認しておきます。
配管と床:将来の変化に備える

歯科のユニットには、給排水、バキューム、エアなどの配管が必要です。配管を床下に収めるため、床を上げたり二重床にしたりします。
ここで大切なのが、将来の変化を先に仕込んでおくことです。ユニットの増設や診療内容の拡大を考えているなら、最初の工事で配管のルートを確保しておくと、後の工事が小さく済みます。床を上げる場合は、入口のスロープなど、車いすでも入れる計画と両立させます。
費用と期間の目安
費用は開業の形で大きく変わります。歯科開業を支援する2ndLaboによると、30坪の場合で次のとおりです。
- テナントの内装:坪50万〜100万円(総額1,500万〜3,000万円)
- 新築(建物のみ):坪110万〜160万円
- 医療機器:別途2,000万〜3,500万円
- 新築の場合の期間:18か月〜2年
新築や併用住宅では、土地探しから開業までに時間がかかります。開業したい時期から逆算して、早めに相談を始めることをおすすめします。
実例:森の歯科(和歌山県田辺市)

森の歯科は、兵庫県芦屋市のクリニックで院長を務めた歯科医が、田辺市で第二の人生を送るための歯科医院併用住宅です(木造2階建て、延床180.10㎡、2022年5月竣工)。1階が歯科医院、2階が院長の住まいです。
「怖くない、通いやすい」を建物にする
施主は、患者さんが来やすい環境を整えること、痛くない治療を行うことを経営の柱にしました。YYAはこの方針をそのまま建物の組み立て方にしています。
森に向けた全室個室の治療室
まず、前面に広がる森を見ながら治療を受けられる個室を配置しました。どの個室からも森が見えるように並べ、受付や滅菌などの歯科に必要なスペースは、残りの空間に割り当てています。作りたい形からではなく、治療の空間から全体を決めていく順番です。
木の素材で自然になじむ
外壁は杉の無塗装張り、内装は構造用合板仕上げです。内外に木を使い、周りの自然になじむ建物にしました。
営業しながら改修できる断面
施主には、将来は2階で小児治療を中心とした診療をしたいという要望がありました。そこで2階を二重床にして配管を通すスペースを確保し、今回の工事で配管を先に立ち上げています。1階の診療を続けながら、2階を改修できる計画です。
よくある質問

Q. 住まいと一体の歯科医院も設計できますか?
A. はい。患者さんとご家族の動線を分けながら、医院と住まいを一体で計画します。
Q. 機器メーカーは自分で選べますか?
A. はい。設計事務所は特定のメーカーに縛られないため、選んだ機器に合わせて設計できます。
Q. 関西以外でも依頼できますか?
A. 大阪府吹田市の一級建築士事務所です。大阪・兵庫・京都・滋賀・奈良・和歌山など関西を中心に、全国のご依頼に対応しています。大阪府吹田市の事務所から、和歌山県での実績もあります。
まとめ
歯科医院の設計では、動線や法規、配管などの技術的な要件を満たすことが前提です。そのうえで「患者さんがどう感じるか」を出発点にすると、医院の方針がそのまま空間になります。YYAでは、開業・移転を検討中の歯科医師の初回相談を無料で受け付けています。
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参考:YYA 森の歯科・architecturephoto 森の歯科・TECTURE MAG 森の歯科・板橋区 X線診療室の基準・2ndLabo 歯科医院の設計
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