庇(ひさし)とは、窓や出入口の上に付ける小さな屋根のことです。雨が窓や玄関に吹き込むのを防ぎ、夏の高い日差しをさえぎり、外壁や窓まわりを汚れや劣化から守ります。
よく似た言葉の「軒(のき)」は、屋根そのものが外壁より外に出た部分を指します。屋根の端が伸びているのが軒、壁から別に突き出しているのが庇、と考えるとわかりやすいでしょう。
庇の出(壁から先端までの長さ)は、窓の向きと高さで決めます。また、外壁から1m以上出すと、その分が建築面積に入るため、敷地によっては建蔽率に影響します。この記事では、庇と軒の違い、出の長さの考え方、後付けするときの注意を整理します。

庇と軒の違い
| 軒(のき) | 庇(ひさし) | |
|---|---|---|
| どこにあるか | 屋根の端。外壁より外に出た部分 | 窓や出入口の上。外壁から突き出す |
| 屋根との関係 | 屋根と一体 | 屋根とは別に付ける |
| 主な役割 | 外壁全体を雨や日差しから守る | 窓・出入口を雨や日差しから守る |
| 後から付けられるか | 屋根をかけ直す必要があり難しい | 外壁に取り付ければ後付けもできる |
軒の出が深い家は、外壁全体が雨に当たりにくくなります。平屋や和風の家で軒を深く出すのはそのためです。軒の出が浅い家や、2階の窓には、庇で窓ごとに守る考え方になります。
軒の裏側(下から見える天井の部分)は「軒天(のきてん)」と呼びます。軒天は、屋根裏の換気口を設けたり、隣家からの火が屋根裏に入りにくい材料で仕上げたりする部分です。
庇の役割
- 雨を防ぐ:窓を開けたまま少しの雨ならしのげる。玄関や勝手口で傘をたたく場所になる
- 日差しを調整する:夏の高い日差しをさえぎり、冬の低い日差しは室内に入れる(次の節)
- 外壁と窓まわりを守る:窓の上から流れる雨だれの汚れや、サッシまわりの劣化を抑える
- 外観に陰影をつくる:壁から出る水平の線が、窓の上に影を落とす
日差しを防ぐ出の考え方
庇の効果が最も大きいのは南の窓です。南の太陽は、夏は高く、冬は低い位置を通るためです。
正午の太陽の高さ(南中高度)は、おおよそ「90° − 緯度 ± 23.4°」で求められます。大阪(北緯約34.7°)では、夏至で約78.7°、冬至で約31.9°です。夏はほぼ真上から差す日差しを、短い庇でもさえぎれます。冬は低い日差しが庇の下をくぐって室内の奥まで入ります。
窓の高さに対して庇の出が短すぎると夏の日差しが入り、長すぎると冬の日差しまでさえぎります。窓の高さ、庇を付ける位置、敷地の緯度から、夏と冬の日差しの入り方を断面図で確かめて出の長さを決めます。
一方、東や西の窓は、朝夕の低い日差しが横から差し込むため、庇だけではさえぎれません。外付けのブラインドやすだれ、植栽、窓の大きさや向きの工夫と組み合わせます。
建築面積と建蔽率への影響
建築基準法では、軒やひさしなどが外壁(または柱)の中心線から水平距離1m以上突き出ている場合、先端から1m後退した線までを建築面積に入れます(建築基準法施行令 第2条第1項第2号)。
たとえば、庇の出が1.5mなら、外壁から0.5mの部分が建築面積に加わります。建蔽率(敷地に対する建築面積の割合)に余裕がない敷地では、庇や軒の出を1m未満に抑えるか、建物の大きさとのバランスで決めることになります。
深い軒や庇をつくりたい場合は、計画の早い段階で建築面積の計算に入れておくことが大切です。
庇の素材と種類
| 種類 | 特徴 | 向いている場所 |
|---|---|---|
| 建物と一体でつくる庇(木造・鉄骨・コンクリート) | 外観になじむ。出を大きくできる | 新築で窓の配置と一緒に計画する場合 |
| 既製品の庇(アルミなど) | 軽く、後付けしやすい | リフォーム、勝手口、小さな窓 |
| ガラスやポリカーボネートの庇 | 光を通すので室内が暗くなりにくい | 玄関、採光を優先したい窓 |
光を通す素材の庇は、雨は防げますが、夏の日差しをさえぎる効果は小さくなります。何を優先するかで素材を選びます。
後付けするときの注意
- 取り付ける下地:外壁の中に、庇の重さや風、雪の力を受けられる下地(柱や間柱)があるか
- 防水:外壁に穴をあけて固定するため、取り付け部分から雨水が入らないように納める
- 建築面積:出が1m以上になると建築面積に入る。建蔽率に余裕があるか
- 防火の規制:防火地域・準防火地域では、外壁や軒裏の防火性能に関わることがある
- 隣地との距離:雨水が隣地に落ちないか
既製品の小さな庇なら工事は比較的簡単ですが、出の大きい庇や、外壁の仕様によっては設計者や施工者に確かめてから選びましょう。
YYAの設計での例
YYAが設計した住宅でも、軒や庇の出を、外観と日差し、雨の防ぎ方から決めています。
西神中央の家(神戸市、リノベーション)では、庭に面したリビングの大きな窓の上に、深い庇を設けています。

箕面の家(大阪府箕面市)でも、屋根の軒を外壁より外に出しています。

また、工事中の神戸市立王子弓道場では、深い軒をもつ大きな屋根を計画しています。

ご相談の前に
庇や軒の出は、窓の大きさ・向き、外観、建築面積と一緒に決めます。ご相談の際は、敷地の住所(方位と周りの建物がわかると、日差しの入り方を確かめられます)、気になっている窓の位置、新築かリフォームかを教えてください。
まとめ
庇は窓や出入口の上に付ける小さな屋根で、屋根の端が伸びた軒とは別のものです。南の窓では、出の長さで夏の日差しをさえぎり冬の日差しを入れられます。東西の窓は庇だけでは防げません。外壁から1m以上出すと建築面積に入るため、深い庇や軒は計画の初めから考えておきましょう。
この記事の監修
吉野優輔(一級建築士/株式会社YYA 代表取締役)
2007年近畿大学理工学部建築学科卒業。片岡重男建築研究所、株式会社日建設計を経て、2021年に独立(2022年に株式会社YYAに改組)。2024年から近畿大学建築学部の非常勤講師。詳しくは会社概要をご覧ください。
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