箕面の家

【保存版】ホテルライクな家づくり完全ガイド

~非日常を日常にするための設計・素材・設備の教科書~

箕面の家

家づくりを考えるとき、「ホテルのような家にしたい」と願う方は非常に多いです。SNSや雑誌で見る美しい事例に憧れ、夢を膨らませるのは素晴らしいことです。しかし、実際に完成した家を見て「なんとなく違う」「ただ広いだけで落ち着かない」「生活感ですぐに散らかる」「維持管理が大変で疲れてしまった」と後悔するケースも少なくありません。

なぜ、うまくいかないのでしょうか。

それは、ホテルライクという言葉の表面的なイメージだけを真似して、その裏側にある「緻密な計算」や「機能的な裏付け」、そして何より「それを維持するための解決策」を見落としているからです。

ホテルは、そこで暮らすためではなく、一時的に滞在するために作られた施設です。それをそのまま住宅に持ち込めば、生活が破綻するのは当然です。必要なのは、ホテルのデザイン手法を分析し、住宅という機能に合わせて調整する作業です。

このガイドブックでは、どうすれば本当にホテルライクな空間が実現できるのか。設計の手法、素材の選び方、照明の数値、設備機器の選定、そして収納計画に至るまで、プロが実践している具体的な手法を余すことなくお伝えします。

これから家を建てるあなたが、後悔のない選択をするための「判断の基準」として活用してください。

第1章 コンセプト:なぜ、私たちは「ホテルライク」に惹かれるのか

1-1. 「おしゃれ」と「ホテルライク」の決定的な違い

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まず、言葉の定義をはっきりさせておきましょう。多くの人が混同していますが、「おしゃれな家」と「ホテルライクな家」は、似ているようで目指すゴールが決定的に違います。

一般的な「おしゃれな家」は、お気に入りの雑貨を飾ったり、家族の写真を並べたり、温かみのある家具を置いたりと、要素を加えていく空間です。そこには住む人の個性や趣味が色濃く反映されます。

一方、「ホテルライクな家」は、徹底的に生活感という不要な視覚情報を消し去る、要素を減らす空間です。個性を主張するのではなく、空間そのものの質を極めるアプローチです。

私たちが高級ホテルに入って「ああ、素敵だな」と感じ、心からリラックスできるのはなぜでしょうか。それは、そこにあるべき「日常の雑多な情報」が物理的に遮断されているからです。 シャンプーボトルの派手なラベル、テレビ裏の絡まったコード類、テーブルの上の郵便物の山、カレンダー、脱ぎ散らかした靴、子供のプリント類。これらが視界に入らないだけで、人間の脳は情報処理の負担から解放され、休息モードに入ります。

つまり、ホテルライクな家づくりとは、単に豪華なシャンデリアや高級なソファを買うことではありません。「いかに生活感を消し、静寂で整然とした空間を作るか」という、極めて機能的かつ論理的な挑戦なのです。

1-2. 成功の鍵は「世界観の統一」にある

西神中央の家©Takumi Ota

多くの施主が陥る最大の失敗があります。それは「あれもこれも」と要素を詰め込んでしまうことです。

「リビングは明るい北欧風が好き、でもトイレはバリのアジアンリゾート風にしたい。寝室はニューヨークのモダンなホテルみたいにカッコよくして、和室は旅館風に……」 このようにテイストが混在すると、家全体としての統一感が失われ、ホテルライクな洗練された印象から一気に遠ざかります。テーマパークのような家にはなりますが、静謐なホテルにはなりません。

一度、一流ホテルを思い出してください。エントランスロビーからエレベーターホール、廊下、そして客室、バスルームに至るまで、一つの明確なコンセプトで貫かれているはずです。素材の色味、金具の質感、照明の色温度、すべてがそのルールの下で選ばれています。

家づくりでも同様です。最初に一つのテイスト(例:モダン、シック、ラグジュアリー、和モダンなど)を決めたら、家中のすべての素材、色、照明をそのルールに従って選ぶ必要があります。

【具体的な実践方法】

  1. Pinterestなどの画像収集ツールを使う: まずは直感でいいので、好きな画像を100枚集めてください。
  2. 共通項を探す: 集めた画像を見返すと、「床は濃い色が多い」「石材を多用している」「直線的なデザインが多い」など、自分の好みの傾向が見えてきます。
  3. 言語化する: その傾向を「グレー基調のモダン」などと言語化し、建築家と共有します。
  4. ルールを守る: 壁紙、床材、家具を選ぶ際、常にそのコンセプトに合致するかを自問します。「この雑貨かわいいから」という理由だけで選ぶのはNGです。この「一貫した判断」こそが、成功の第一歩です。
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第2章 マテリアル(素材)選び:本物が持つ力を借りる

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内装を決める段階になると、多くのハウスメーカーや工務店は「標準仕様」のカタログを提示します。そこにはビニールクロス(壁紙)や、木目がプリントされたシート貼りフローリングが並んでいます。これらは安価で、汚れに強く、施工もしやすい素晴らしい建材です。

しかし、真にホテルライクな空間を目指すなら、これら「模造の素材」の多用は避けるべきです。なぜなら、空間の重厚感や空気感は、素材の質感そのものが作り出すからです。

2-1. 壁面:クロスに頼らないという選択肢

日本の住宅の壁は、9割以上が白いビニールクロスで仕上げられています。しかし、高級ホテルの客室やロビーで、一般的なビニールクロスが主役になっていることは稀です。 なぜなら、ビニールクロスは表面が均一で平滑すぎるため、照明を当てても美しい陰影が生まれず、光を単調に反射してしまうからです。

【推奨するマテリアルとその効果】

  • 左官壁(塗り壁): 珪藻土、漆喰、あるいはジョリパットやモールテックスといった素材です。職人がコテで仕上げた壁には、微細な凹凸と手仕事の跡が残ります。ここに間接照明の光が当たると、柔らかく複雑な影が生まれ、空間に圧倒的な深みを与えます。特に「モールテックス」のようなモルタル調の左官材は、モダンで洗練された印象を作るのに最適です。
  • 大判タイル・石材: リビングのテレビ背面(テレビボード裏)や玄関ホールの正面など、視線が集中する場所(フォーカルポイント)には、本物の石や大判のタイルを貼ることを強く推奨します。 ここでの重要なポイントは「サイズ」です。30cm角のような小さなタイルではなく、600mm角、あるいは600mm×1200mmといった大判サイズを選んでください。サイズが大きいほど目地(継ぎ目)の線が減り、空間が広く、ダイナミックに見えます。素材には「エコカラット」も人気ですが、ホテルライクを目指すなら、より石の質感に近い輸入タイルなどがおすすめです。

「予算的に全部を塗り壁やタイルにするのは無理」という場合がほとんどでしょう。その場合は、リビングのメインの壁一面や、玄関を開けて最初に見える壁だけなど、ポイントを絞って本物を使いましょう。それ以外の壁は、塗装のような質感を持つマットなクロス(織物調ではなく塗装調のもの)を選ぶことで、コストを抑えつつ統一感を維持できます。

2-2. 床と建具:体に触れる部分への投資

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床は、家の中で唯一、常に体が触れている場所です。壁は眺めるものですが、床は触れるものです。ここを妥協すると、視覚的にはホテルライクでも、体感としての満足度は上がりません。

  • 床材の選定: 本物の木(無垢材や表面に厚みのある挽板)か、あるいは質感の良いタイルを選びましょう。 「タイルは冬冷たくないですか?」とよく質問されますが、現代の住宅では床暖房と組み合わせるのが一般的です。タイルは木材よりも熱伝導率が高く蓄熱性もあるため、一度暖まると非常に快適です。夏はひんやりとして気持ちよく、ホテルライクな暮らしには最適な素材と言えます。 木材を選ぶ場合は、節(ふし)が少ないグレードを選び、塗装はテカテカしたウレタン塗装ではなく、木の質感を感じられるオイル塗装やマット塗装を選んでください。
  • 建具(ドア)の在り方: ここがプロと素人の分かれ目です。「ハイドア」を強く、強くおすすめします。 一般的な日本の住宅のドアの高さは2m程度です。天井高が2.4mや2.5mある場合、ドアの上に40cm〜50cmほどの壁(垂れ壁)ができます。これがあると、空間が分断されて見えます。 天井まで届く2.4m以上の「ハイドア(フルハイトドア)」を採用すると、この垂れ壁がなくなり、天井が隣の部屋まで繋がって見えます。ドアを開け放ったときの開放感、閉じたときの壁との一体感は、空間の質を劇的に変えます。 また、ドア枠や巾木(壁と床の境目の部材)を極力細く、あるいは「隠し枠」「入り巾木」といった納まりにして存在を消すことで、ノイズのないミニマルな空間が完成します。

2-3. 細部へのこだわり:スイッチと金物

「細部が全体の質を決める」と言われます。壁や床にお金をかけても、小さなプラスチックパーツが一つあるだけで、そこから急激に生活感が漏れ出します。

  • スイッチ・コンセントプレート: 標準的な角が丸いプラスチックのスイッチプレートは避けてください。 スクエア(四角)でマットな質感のもの、例えば神保電器の「NKシリーズ」や、パナソニックの「SO-STYLE(ソー・スタイル)」、あるいはトグルスイッチなどを採用しましょう。壁の色がグレーなら、スイッチもグレーや黒を選んで壁に溶け込ませます。
  • 金物(ハードウェア): ドアノブ、引き出しの取っ手、タオル掛け、ペーパーホルダー。これらはアクセサリーです。 プラスチック製や安っぽいメッキのものは避け、真鍮(ブラス)、ステンレス、アイアンなど、無垢の金属製を選びましょう。手に触れたときのズッシリとした「重さ」や、金属特有の「冷たさ」が、無意識のうちに脳に「ここは上質な空間だ」という信号を送ります。指紋がつきにくいバイブレーション仕上げや、マットブラック塗装などが人気です。

第3章 照明計画:「明るさ」ではなく「雰囲気」を作る

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日本の一般的な住宅照明は、世界的に見ても「明るすぎ」ます。天井の真ん中に大きな円盤型のシーリングライトをつけ、部屋の隅々まで昼白色(青白い光)で均一に照らす。これは学校やオフィスで文字を読むには適していますが、リラックスを目的とするホテルライクな空間とは対極にあります。

3-1. シーリングライトは使わない

思い切って、主照明としてのシーリングライト(引っ掛けシーリング)は排除しましょう。 代わりに、複数の種類の光を組み合わせる「多灯分散(タスク&アンビエント)」という手法をとります。部屋全体を一灯で明るくするのではなく、必要な場所に必要なだけの光を配置する考え方です。

3-2. グレアレスダウンライトの活用

天井に埋め込む「ダウンライト」なら何でも良いわけではありません。 ホームセンターや標準仕様で使われる一般的なダウンライトは、拡散板が表面についており、見上げると非常にまぶしく感じます(これをグレア=不快なまぶしさ、と言います)。

ホテルライクにするなら、「グレアレス(まぶしさがない)」タイプのダウンライトを選んでください。 これは光源(LED)が器具の奥深くにセットされており、鏡面反射板や黒いコーンで光を制御しています。器具の真下に行かない限り、点灯しているかどうか分からないほど光源が見えません。 「天井面が暗い」ということは、空間における天井の存在感が消えることを意味します。そして、必要な場所(テーブルの上、アート、床の一部)だけに光が落ちるため、ドラマチックで落ち着いた雰囲気が生まれます。

3-3. 建築化照明(間接照明)で壁面を照らす

西神中央の家©Takumi Ota

照明器具そのものを見せず、光だけを壁や天井に当てる「建築化照明」は、ホテルライクの必須テクニックです。

  • コーブ照明(折り上げ天井): 天井面を照らして、天井を高く、柔らかく見せる手法。
  • コーニス照明: 壁面を上から下へ均一に照らす手法。先ほど紹介した左官壁やタイルの凹凸を美しく浮かび上がらせます。
  • カーテンボックス照明: カーテンボックスの中にライン照明を仕込み、カーテンのドレープ(ひだ)に光を落とす手法。夜、カーテンを閉めたときに美しい光のカーテンが現れます。

これらを組み合わせることで、空間に奥行きと柔らかさが生まれます。光の色温度は、落ち着きのある「電球色(2700K)」または「温白色(3500K)」で統一し、間違っても「昼白色(5000K)」を混ぜないようにしましょう。

3-4. シミュレーションの重要性

照明計画で失敗しないためには、感覚で決めず、必ず「照度分布図」などを用いたシミュレーションを行ってください。 「部屋全体が平均何ルクスあるか」というJIS規格のような基準は無視して構いません。重要なのは、「床面、壁面、テーブル面それぞれの明るさのバランスがどうなっているか」です。 「暗くないですか?」と不安になるかもしれませんが、人間は「垂直面(壁)」が明るいと、空間全体を明るく感じる習性があります。壁や天井を間接照明で適切に照らせば、床の照度を落としても暗く感じることはなく、むしろ落ち着きを感じます。

第4章 究極のバスルーム:在来浴室という贅沢

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毎日のお風呂を、単に「体を洗って汚れを落とす作業場」にするのか、それとも「心身を癒やし、明日への活力を養うリラクゼーション空間」にするのか。ここで、既製品のユニットバスにするか、オーダーメイドの在来浴室にするかの大きな分かれ道があります。

4-1. ユニットバスのメリット・デメリット

日本のユニットバスは世界最高水準の工業製品です。防水性、断熱性、清掃性、施工スピード、どれをとっても優秀です。しかし、あくまで「製品」であり、どうしても「プラスチックの質感」や「決まったサイズ・窓位置」という制約からは逃れられません。 どれだけグレードの高いユニットバスを入れても、壁のパネルの継ぎ目や、樹脂製のドア枠など、やはり「機能的なお風呂」の域を出ないことが多いのです。

4-2. ホテルグレードの在来浴室(オーダーバス)

西神中央の家©Takumi Ota

本当にホテルライクな暮らし、非日常のバスタイムを実現したいなら、在来浴室を検討してください。

  • 素材の自由と連続性: 床や壁に、リビングや洗面室と同じ大判タイルや天然石を使えます。洗面室の床と浴室の床を同じタイルでフラットに連続させ、仕切りを透明な強化ガラス一枚にすれば、海外ホテルのような「シースルーバス」になります。視線が抜けるため、洗面室と浴室が一体の広い空間として感じられます。
  • 設備機器の選定: 天井から雨のように降り注ぐ「オーバーヘッドシャワー」は、高い位置からお湯を浴びることで全身が包み込まれ、リラックス効果が抜群です。また、床に置くタイプの「置き型バスタブ」や、壁に埋め込むタイプのスタイリッシュな水栓など、デザイン性の高い海外製機器(グローエ、ハンスグローエなど)を自由に選べます。

「寒くないの?」「掃除が大変では?」という懸念については、現代の技術で解決可能です。 タイルの下に温水式床暖房を入れれば、ユニットバス以上に暖かく、使用後の乾燥も早くなります。最近のタイルは汚れにくい加工がされており、目地もカビにくい素材があるため、メンテナンスも以前ほど難しくありません。初期費用とメンテナンスの手間はかかりますが、それ以上の「精神的な豊かさ」が得られます。

4-3. 洗面所ではなく「パウダールーム」

洗面所も、洗濯機や洗剤、歯ブラシが見える生活感満載の場所にしてはいけません。ここは身支度を整える「パウダールーム」であるべきです。

  • 洗濯機の隠蔽: 洗濯機は扉の中に隠すか、あるいは脱衣室とは別の「ランドリールーム(家事室)」に移動させます。これにより、パウダールームは生活感から解放されます。
  • ダブルボウルとフローティング: 朝の混雑を避けるため、洗面ボウルは2つ並べたダブルボウルにします。カウンターは床から浮かせた「フローティングデザイン」にすると、床面が広く見え、ホテルのような軽やかさと広さを演出できます。
  • 鏡と照明: 鏡は既製品ではなく、壁一面のオーダーミラーにします。鏡の上下や裏に間接照明を仕込み、顔に影が落ちないようにすると同時に、空間の奥行きを演出しましょう。

第5章 生活感を消す「隠す収納」と動線計画

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どれだけ内装や設備にこだわっても、入居して1ヶ月でテーブルの上に郵便物が積み重なり、床にカバンが置かれていれば台無しです。 ホテルライクな家を維持するためには、デザイン以上に「収納」と「動線」の設計が重要です。ここで勝負が決まります。

5-1. 「見せない」が最大のルール

ホテルライクの基本ルールは「生活雑貨を目に見える場所に置かない」ことです。 ティッシュ箱、エアコンのリモコン、郵便物、子供の学校のプリント類、Wi-Fiルーター、ロボット掃除機の基地。これらが一つでも視界に入ると、そこから生活感が出てしまいます。

  • 壁面収納(ストレージウォール): 置き家具(タンスやチェスト)を買うのはやめましょう。壁全体を天井までの造作収納にします。取っ手のないプッシュオープン式の扉にすれば、見た目はただの「美しい壁」ですが、開けると大容量の収納になります。ここに、リビングで使うあらゆる雑多なものをすべて収納します
  • ニッチとコンセント計画: スマホの充電コードが垂れ下がっているのもNGです。収納の中にコンセントを設け、充電ステーションを隠します。ロボット掃除機も、収納の下部をくり抜いて基地を作り、見えない場所で充電・待機させます。

5-2. バックヤード動線(裏動線)の構築

ホテルの美しさの裏には、スタッフが動き、リネンや備品を運ぶための「バックヤード」が存在します。住宅にもこの考えを取り入れます。

  • ファミリー玄関(シューズクローク): 来客用の美しい玄関ホールとは別に、家族専用の入り口兼収納通路を作ります。 帰宅したら、そこで靴を脱ぎ、コートを掛け、カバンを置き、帽子を置き、ベビーカーを畳み、あるいは手洗いまで済ませます。そうして「身軽な状態」になって初めて、リビングへのドアを開けるのです。これにより、リビングに個人の荷物が持ち込まれることを物理的に防ぎます。
  • 隠れたパントリーと家電: キッチンも同様です。冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、ゴミ箱。これらは生活感を強く感じさせるものです。 キッチンの背面に大型のパントリー(または壁面収納)を設け、これらをすべて扉の中に隠します。「使う時だけ開けて、終わったら閉める」。これにより、リビングから見えるキッチンは、常に家具のように美しい状態を保てます。これを「アプライアンス・ガレージ」とも呼びます。

5-3. 収納量の数値化

「たくさん収納があればいい」という曖昧な計画では失敗します。 現在の持ち物(靴は何足、服は何着、書類はファイル何冊分)をリストアップし、それを収めるために必要な「幅・奥行き・高さ」をcm単位で計算してください。そして、将来増える分として2割〜3割の余裕を持たせます。 設計段階で「掃除機はここに、ルーターはここに、プリントはここに」と、すべてのモノの住所を確定させることが不可欠です。

第6章 空間構成とゾーニング

6-1. エントランスは「家のロビー」

玄関は家の第一印象です。 狭い玄関に靴が散乱している状態は避けなければなりません。面積が許す限り土間を広く取り、上がった正面には視線が抜ける「フォーカルポイント」を作ります。 例えば、ピクチャーレールで大きなアートを飾る、飾り棚(ニッチ)に季節の花を生ける、あるいは地窓(床付近の低い窓)を設けて坪庭の緑を見せるなどです。 靴箱は天井までのトールタイプにして壁と一体化させるか、あえて床から浮かせて間接照明を入れ、軽さを出します。

6-2. マスタースイートという発想

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寝室を単に「寝るだけの部屋」にするのはもったいないです。海外ホテルのような「マスタースイート」の概念を取り入れましょう。 寝室(ベッドルーム)、ウォークインクローゼット、そして専用のバスルーム・洗面室を一つのエリアとして繋げる動線計画です。 朝起きて、トイレに行き、シャワーを浴び、クローゼットで着替え、身支度を整えてからリビングに出ていく。この一連の動作がスムーズに完結し、プライベート性が保たれるレイアウトは、まさにホテルのスイートルームの快適さです。

6-3. シンメトリー(左右対称)の構成美

西洋建築やクラシックホテルで多用される「シンメトリー(左右対称)」の美学を意識しましょう。 例えば、テレビボードの中心に対して左右に同じデザインの照明を置く、ソファの中心に合わせて窓を配置する、ベッドの両サイドに同じナイトテーブルとスタンドライトを置く。 左右対称の配置は、視覚的な安定感と静寂さを生み出します。整った規律のある空間は、人の心を落ち着かせる効果があります。

第7章 五感で感じる快適性

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視覚的なデザインだけでなく、音、空気、香り、手触りといった「目に見えない要素(五感)」も、ホテルライクな空間の質を決定づけます。

7-1. 静けさを作る(防音・遮音)

ホテルの客室に入った瞬間の、あの「シーン」とした静けさ。あれは分厚いコンクリート壁や重厚なドア、吸音性のあるカーペットによって作られています。 木造住宅でも、静けさは作れます。

  • 排水音対策: 2階のトイレやシャワーの配管には、吸音材(音ナインなど)を巻き、水流音がリビングに響かないようにします。
  • 外部騒音対策: 窓サッシは、断熱性だけでなく「防音性」の高い等級(T-2やT-3等級)を選び、ガラスは異厚複層ガラスなどを採用して、外の車の音や雨音を遠ざけます。
  • 室内の反響: 床がタイルやフローリングだけだと音が反響しやすいので、リビングの一角に大きめのラグを敷いたり、布製のカーテンやファブリックソファを置いたりして、適度に音を吸収させます。

7-2. 香りの計画(Scent Design)

玄関を開けた瞬間や、リビングに入ったときに、ほのかに良い香りがする。これだけで脳は「ここは特別な場所だ」と認識し、記憶に深く刻まれます。 市販の消臭剤を置くのではなく、計画的な香りの演出を行いましょう。

  • ビルトインディフューザー: 全館空調システムに組み込むタイプのアロマディフューザーなら、家全体をほのかな香りで包めます。
  • 定位置の確保: 玄関やパウダールームのニッチに、デザイン性の高いリードディフューザーやアロマストーンを置く場所を設計段階で決めておきます。コンセントも忘れずに。

7-3. 空気の質

ホテルは常に適温で、空気も清浄です。これを実現するのが「全館空調」や「第一種換気システム」です。 壁掛けエアコンは、機能的ですが見た目にはノイズです。可能なら天井埋込カセット型エアコンや、小屋裏エアコンなどを採用し、機器の存在感を消しましょう。吹き出し口も、目立たないライン型のものを選びます。

第8章 資金計画とコストバランス

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ここまで紹介した要素をすべて盛り込むと、当然ながら建築費用は上がります。しかし、予算は無限ではありません。大事なのは「メリハリ」です。

  1. LDKと玄関に集中投資する: 起きている時間の大部分を過ごすリビング・ダイニング・キッチン、そして家の第一印象である玄関。このエリアには予算の7割〜8割を投じ、本物の素材や良い照明を使います。
  2. 個室はコストダウン: 子供部屋や予備室、納戸などは、標準仕様のクロスや床材で十分です。寝室も、ベッドヘッド側の壁だけこだわれば、他はシンプルで構いません。
  3. 外構(庭)も予算内: 家の中がどれだけホテルライクでも、外構が砂利だけでは興醒めです。植栽一本、アプローチのタイル一枚が家の質を上げます。建物予算の1割〜2割は必ず外構に残しておいてください。

最後に:家は「育てる」もの

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。 「ホテルライクな家」をつくるとは、単に見栄えを良くすることではありません。それは、「日常のストレスから解放され、心からくつろげる場所をつくる」という、生き方の選択です。

ご紹介した手法は、一般的な建売住宅や標準仕様の注文住宅に比べれば、コストも手間も、そして設計の難易度も格段に上がります。しかし、毎日何十年と暮らす場所です。その空間があなたに与える精神的な安らぎ、自己肯定感、そして明日への活力は、かけたコスト以上の価値となって必ず返ってきます。

どうか、表面的なスタイルだけでなく、素材の手触りや光の質、そして生活を美しく維持するための機能性にこだわって、世界に一つだけの「極上の日常」をつくり上げてください。 完成したその家で、あなたが最高の時間を過ごせることを心から願っています。

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