抽象的なサロンスペース

美容室の内装設計のポイント|保健所の基準・寸法・排水と開業までの流れ|建築家が解説

美容室の内装は、見た目のデザインだけで決まるものではありません。保健所の構造設備の基準、シャンプー台の排水、セット面の数と寸法といった条件が先にあり、その中で店のコンセプトを形にしていきます。

なかでも、物件を契約した後では変えられない条件が多いのが美容室の特徴です。この記事では、開業の順番に沿って、内装設計で確かめることを整理します。

美容室Lulaのサロンスペース(大阪府吹田市)

1. 物件を契約する前に確かめること

確かめること理由
保健所の基準を満たす広さがとれるか作業場と待合所の面積などに基準がある(次の章)
シャンプー台の排水をどこに流せるか既存の排水管の位置で、床を上げる高さが決まる(4章)
給湯・電気の容量シャンプー台の給湯や、ドライヤーなどの電気の使用量が大きい
外からの見え方前面道路や歩道からどう見えるかは、集客に関わる

YYAが設計した美容室・ギャラリー「Lula」(吹田市、2021年竣工、延床65.7㎡)では、物件の契約前の内見から関わりました。前面道路が広く見通しがよいこと、交差点で信号待ちをする車からも店が見えること、敷地内と市の歩道を合わせた広いスペースが店の前にあることが、物件を決める決め手になりました。

夜のLulaのファサード。全面ガラスで内装が外ににじみ出す

2. 保健所の構造設備の基準

美容所を開設するには、あらかじめ管轄の保健所に届け出て、構造設備の検査と確認を受ける必要があります(美容師法 第11条・第12条)。基準は美容師法施行規則と各自治体の条例で決まっていて、自治体によって数値や面積の数え方が違います。

大阪市の例(大阪市保健所の資料)では、主に次のような基準があります。

項目基準
面積作業場(消毒室を含む)と待合所をあわせて13㎡以上
待合所作業場と区分する
住居などとの区分住居その他の施設と隔壁などで完全に区分する
床・腰板不浸透性の材料を使う
照明作業面で100ルクス以上
換気炭酸ガス濃度5,000ppm以下
洗場・消毒流水設備、消毒設備、消毒済みとそれ以外を区別する収納、ふた付きの汚物箱・毛髪箱

同じ大阪府内の寝屋川市も、作業場と待合所の合計13㎡以上、床と腰板の不浸透性材料などを定めています(寝屋川市保健所の手引き)。一方、東京都では「作業室の床面積13㎡以上、美容いすは6台まで、1台増えるごとに3㎡を加える」という考え方です(東京都保健医療局)。

吹田市など、開業する市の基準は、図面を固める前に管轄の保健所へ相談して確かめます。寝屋川市の手引きでは、開設の届出は営業開始のおおむね2週間前(遅くとも10日前)とされています。

3. セット面・シャンプー台・バックルームの決め方

設計を始める前に、次のことを決めておきます。これらが設計の条件になります。

  • セット面の数とシャンプー台の数:同時に何人の客を受けるか、スタッフは何人か
  • 個室やスパの有無:ヘッドスパや半個室の席を設けるか
  • バックルームの広さ:薬剤や備品の置き場、スタッフの休憩、洗濯機。働く人数で必要な広さが変わる
  • 予算:シャンプー台などはリースにする方法もある

寸法の目安

寸法の目安は、美容室の内装会社などの記事で次のように紹介されています。出典によって幅があり、法令の基準ではありません。実際には、使うセット椅子やシャンプー台の寸法(メーカーの図面)で確かめます。

項目目安出典
セット面の間隔(鏡の中心から中心)約1,200mmが通常、1,500mmほどあれば理想的。10坪程度では1,000〜1,100mmに詰める例もnon design、スタジオすむとこ
セット面の後ろの通路客の背後をスタッフが通る通路で1,200mm以上。通路一般は80cm以上スタジオすむとこ、サインド
シャンプー台本体幅600〜800mm、リクライニング時の奥行き1,900〜2,000mmKAMIU
シャンプー台のまわり後ろ(バックシャンプー)450〜700mm、左右と前に450mm程度KAMIU
天井の高さ床から梁下まで2,200mmを確保できないときは注意non design

10坪(約33㎡)の美容室では、セット面2〜4台、シャンプー台1〜2台とする例が紹介されていますが、記事によって幅があります。バックルームや待合をどれだけとるかで、置ける台数は変わります。

客の動線(受付→待合→セット面→シャンプー台→会計)と、スタッフの動線(バックルーム・薬剤・シャンプー台)はできるだけ交差させないようにします。

4. 排水と床の段差

美容室の内装設計で特に検討が必要なのが、シャンプー台の排水です。

  • テナント物件の場合:既存の排水管につなぐ必要があります。シャンプー台から既存の排水管まで勾配をとって配管するため、床を上げることが多くなります。排水管までの距離が長いほど、床を上げる高さは大きくなります
  • 新築の場合:排水のルートを自由に計画できるので、床を上げずに済むことが多くなります

床を上げると段差ができます。つまずきの原因にならないように、段差の位置と見せ方を設計で整理します。

段差は、空間を区切るために使うこともできます。Lulaでは、サロンスペースをギャラリーより一段高くし、段差を適所に設けて、ひとつながりの空間をゆるやかに分節しています。

Lulaのスパエリア。自立壁で囲んだ半個室

5. 床・壁の仕上げ

  • 床と腰板:保健所の基準で、不浸透性の材料を使います
  • 清掃のしやすさ:大量の髪が落ちるので、目地の多い床や、凹凸のある床は掃除に手間がかかります
  • 薬剤:カラー剤などが落ちても、汚れや変色が目立ちにくい材料を選びます

Lulaでは、iPadほどの大きさの特注のレンガタイル(4色)を床に使い、壁は2色の特殊塗装としています。

6. 依頼先の選び方

依頼先向いている人
設計事務所・建築家(設計と工事を分けて発注)店のコンセプトやブランディングから一緒に考えたい人、物件選びから相談したい人、工事費の内訳を比べたい人
設計施工の会社(内装会社)窓口を1つにして、開業までの手間と時間を減らしたい人

どちらが良いかではなく、何を優先したいかで選びます。看板やショップカードなどのグラフィックまで含めて依頼するかどうかも、早めに決めておくと、店の印象をそろえやすくなります。

7. 開業までの流れと費用

  1. 物件探し・内見(契約前に設計者や保健所に相談)
  2. 物件の契約
  3. コンセプト・席数・予算を決める
  4. 設計・保健所への事前相談
  5. 内装工事
  6. 美容所の開設届出・保健所の検査
  7. 開業

費用は、物件取得費(保証金、仲介手数料など)、内装工事費、設計料、機器・備品(シャンプー台、セット面、薬剤など)、開業後しばらくの運転資金に分けて考えます。内装工事費の目安は店舗改装の費用の記事、設計料の考え方は店舗の内装設計料の記事をご覧ください。

YYAへのご相談

  • ご相談は無料です
  • 物件を契約する前から相談できます。候補の物件の内見にも同行します(大阪の物件は無料。大阪以外は交通費のみ実費をいただきます)
  • 大阪府吹田市の一級建築士事務所です。大阪・兵庫・京都・滋賀・奈良・和歌山など関西を中心に、全国のご依頼に対応しています

まとめ

美容室の内装は、保健所の基準、シャンプー台の排水、席数と寸法といった条件を先に確かめ、その中でコンセプトを形にしていきます。特に、排水と保健所の基準は物件ごとに条件が違い、契約後には変えにくいため、物件を決める前に設計者と保健所に相談することをおすすめします。

この記事の監修

吉野優輔(一級建築士/株式会社YYA 代表取締役)
2007年近畿大学理工学部建築学科卒業。片岡重男建築研究所、株式会社日建設計を経て、2021年に独立(2022年に株式会社YYAに改組)。2024年から近畿大学建築学部の非常勤講師。詳しくは会社概要をご覧ください。

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