築30年の戸建て住宅のリノベーションで、大きなLDKを持つ静謐な空間
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西神中央の家
所在地:兵庫県西区樫野台
用途:専用住宅
施主:個人
竣工:2023
敷地面積;199.55㎡
建築面積:76.47㎡
延床面積:119.53㎡
撮影:太田拓実
神戸市西区の西神中央のニュータウンの一角が今計画の敷地であり、施主が幼少期から、大学生まで過ごした家でもある。
敷地周辺は住宅街だが、周囲には、田園風景の広がる田舎の風景が残ったエリアである。敷地北側には公園があり、北側以外は全て住宅が隣接している環境となっているものの、敷地面積約60坪単位の住戸が並んでいるので、街中のような密な状況ではなく、比較的ゆとりのある環境となっている。
施主は大阪の祖父の住んでいた長屋が現在の住まいだが、施主が幼少期に過ごしていた西神中央の家は父親が亡くなってから、長年空き家として、放置されていたが、今回はリノベーションとして生きた家として再生させるという依頼だった。枠組壁工法で建てられたかつての間取りは、小部屋が多く、現代の住まいとしては窮屈で、大きなワンルーム空間を作ることと、出来るだけ、外部を改修するよりも、内部を改修してほしいとの要望だった。
設計の依頼を受け、初めて現地調査に伺った際、特徴的な薄いグリーンの外壁だったので、珍しい色ですねと施主に尋ねると、亡くなった父が選んだ色なんですと、幼少期の亡き父との思い出を大事に覚えている施主に感銘を受けた。また現在亡き祖父の家に住まわれていて、次は昔住んでいた実家に住まうという、古きものを大事に使い続ける姿勢も素晴らしいと感じた。
施主の妻は沖縄出身であり、地元沖縄へはたまに帰る程度だった。故郷沖縄を想起させるような仕掛けが何かできないかと思った。沖縄の特徴としてはエメラルドグリーンの海を連想した。
今回の計画では、私小説的な発想から建築をつくるという意味ではなく、施主固有の本質から建築をつくることを目指した。
過去から現在、そして未来へ、施主の家やルーツ、記憶、モノそのものとして再利用するという意味でのマテリアルなど、少し長い時間軸でリノベーションというものを考えることはできないかと考えた。古きものを伝承するような行為が施主の本質に沿っていると考え、固有性を持たせることができるのではないかと考えた。
既存外壁の色のグリーンが施主夫妻の共通項と捉え、それを具現化するマテリアルとして、十和田石を採用した。
十和田石は浴槽に使われることが多いが、機能性に優れたマテリアルである。
大きな特徴として、多孔質であることから、以下のような機能がある。
保温・保湿効果、遠赤外線、マイナスイオン放出機能、脱臭効果、悪臭の吸着、防音・反響防止機能など。
優れた機能にもかかわらず、浴室で使われることが多く、十和田石のイメージを変えたいと考えた。
十和田石でできた空間を作るにあたり、空間の見え方として、採石場のような掘り出した人の手の痕跡が残るような空間にしたいと考えた。
目線に近い壁については、石を切り出した痕跡に見えるよう、40×300、55×240という小さな幅の十和田石とした。
それに対し、床は900×300という大きなサイズで大らかな表現とした。
新しい柱、梁による大きなワンルーム空間は外から見ると大きなピロティ空間のようにも見え、外から見ても採石場から、石を切り出したかのように、見えるように、壁面に凹凸をつけるなど、立体的に構成した。
室内からシームレスに続くテラスの床も十和田石とし、既存外壁のリシン仕上げを室内の天井、長手の壁仕上げにも用い、床、壁、天井ともに内外連続する仕上げとした。
そうすることで、天井、壁、床の内外のマテリアルが相互に貫入し合い、内部のマテリアルが外部に連続し、外部のマテリアルが内部に連続するような内外が連続し合う関係を作り、実質的な空間の広さ以上の視覚的広さを獲得した。
そのような操作により、住宅という具体という器に対し、抽象の空間を挿入することで、具体と抽象の狭間を行き来するような空間体験を作り上げることで、普遍的な空間性を獲得し、これから先の長い時間軸の中での住宅の価値を担保するものとした。
今回工事対象とはしなかった屋根や外壁といった改修についても、将来いずれは改修され、古きもの、少し新しいもの、新しいものが入り混ざり、油絵の絵画のようにそれぞれのマテリアルが混ざり合いつつも、固有の存在として存在するような、生きた家となるだろう。
今回の改修した家を次世代へ受け繋ぐと共に、十和田石というマテリアルも、子供、孫その他次世代が将来、家を建てるときに再利用するなど、施主が今回の家を改修した記憶と共に、新しい世代へと受け継がれることを切に願う。
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